研究課題
基盤研究(C)
本研究課題の目的は、バイオインフォマティクス分野の二つの主要な計算手法である蛋白質の分子動力学(MD)シミュレーションと蛋白質の非経験的全電子状態計算とを融合することによって、従来のMDシミュレーションの精度を高めることであった。具体的には、研究分担者が開発に加わっていた蛋白質の全電子状態計算プログラムProteinDFと、研究代表者が単独で開発したMDシミュレーションプログラムCOSMOS90とを統合することによって、蛋白質の全電子状態計算をMDシミュレーションの数千ステップ毎に行うことを目指していた。本研究課題の目的を達成するために、まず、蛋白質の原子電荷を精度よく決定するための新たな計算手法を開発した。低分子の原子電荷の計算において、すでに、mulliken電荷よりもESP電荷が優れていることが示されていた。しかし、蛋白質のような巨大な分子については、ESP電荷を計算することが困難である。なぜなら、蛋白質に埋もれているアミノ酸残基については、ESP電荷を決定するための分子表面を作り出すことが困難だからである。そこで、我々は、分子を幾つかの部分(フラグメントと呼ぶ)に分け、フラグメントを構成する局在化軌道(LO)からESP電荷を求める方法を考案した。我々の方法によって、蛋白質の部分構造であるα-helixとβ-sheetのESP原子電荷が精度よく計算できることを確認した。水中の小ペプチド(グリシン12残基)について、実際に、ProteinDFによるESP原子電荷の計算とそれを使ったCOSMOS90によるMDシミュレーションを行うことに成功した。ここで、12残基グリシンの電子状態計算を行う際に、周囲の水分子を外部点電荷として取り入れた。我々の方法を水中の蛋白質について適用することは、原理的に可能である。しかし、実用化するためには、LO計算のアルゴリズムを現在のO(N^4)から少なくともO(N^2)に高速化する必要がある。これが、実用化のための今後の課題として残った。
すべて 2007 2005
すべて 雑誌論文 (4件)
J. Comput. Chem. 28
ページ: 1129-1136
J.Comput.Chem. 28
情報処理学会論文誌 46, No. SIG7 (ACS10)
ページ: 9-17
IPSJ Transactions on Advanced Computing Systems 10