研究概要 |
機能性低分子RNAのひとつであるmicroRNA(miRNA)は、標的遺伝子のmRNAに相補的に結合し、その翻訳を抑制するなどの転写後調節作用を有することから、miRNAの機能異常が種々の疾患の発症原因となっている可能性がある。疾患とmiRNA異常との関連を明らかにする最初のステップとして、「miRNAの多様性」を量的および質的に理解することが重要であると考え、本研究では、塩基配列レベルでの多型性(個人差)や、発現レベルでの多様性(個人差、細胞・組織間差)についての体系的理解を目指した。成果は以下の通りである。 1.miRNAゲノム領域における詳細なSNPマップを作成した。mature miRNA配列内にはDNA変異を認めない一方、その前駆体であるpre-miRNA配列内には複数のDNA多型サイト(precursor SNP)を認めた。pre-miRNA配列内の塩基多様度は、mRNAのタンパク質コード領域のそれと同程度であり、量的な面からみると、precursor SNPは疾患関連SNP解析の対象となり得ると考えられた。また、機能的な側面からは、自身の生合成に影響を及ぼす作用を有するprecursor SNPを見いだし、miRNA生合成不全と疾患との関連に関する研究の可能性を示す知見を得た。 2.進化情報生物学的手法(in silico)とマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析(in vitro,in vivo)とを組み合わせて、miRNA標的遺伝子のなかでも、そのmRNA発現量レベルで制御されている遺伝子群を網羅的に同定する新規手法を開発した。開発した本手法を、肝癌において発現変化することが明らかな6つのmiRNA(Murakami et al. 2006)の標的遺伝子同定研究に適用し、miRNA標的遺伝子として、未知の肝癌関連遺伝子を複数同定した。
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