本研究では、intracisternal A particle(IAP)レトロトランスポゾンをモデルとして、レトロトランスポゾンとゲノムの相互作用を調べるためのモデルマウスの開発を行った。我々が新たに単離したIAP配列を有すトランスジェニックマウスを作製した。このIAP配列は、マウスの急性白血病細胞において転移を認めたものとして単離された経緯がある。そこで、IAPの転移により腫瘍が誘発される可能性を考えて観察を続けたが、明らかな腫瘍形成は認められなかった。そこで、このマウスの生体内におけるIAPの転移効率を調べたところ、同じIAP配列を用いた培養細胞レベルでの実験に比べ、著しく転移効率が低かった。これより、マウス生体内においては、導入したIAP配列の活性を積極的に抑える機構が存在する可能性が示唆された。そこで、ゲノムのエピジェネティックな制御に欠陥があるノックアウトマウスに対して、本研究で作製したIAPトランスジェニックマウスを交配させたところ、マウス生体内において転移反応が増大したと考えられる予備的結果を得た。これより、我々の作製したマウスが、レトロトランスポゾンによるゲノムの攪乱に対する防御機構を調べるためのモデルとなる可能性が示唆された。また、IAP配列がマウスのゲノム上で様々な転写を誘発してトランスクリプトームの形成に影響を与えていることと、IAPの分布がマウスの系統間で大きく異なることを明らかにした。これより、IAP配列が、マウスの系統問の遺伝学的形質に影響している可能性が示唆された。
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