シロイヌナズナのゲノム機能を網羅的に解析するために、効率的な物性測定手法と試料調製方法について検討した。試料としては、播種後数日で得られる胚軸が有効であることがわかったが、他の植物試料と比べて非常に小さくて力学的強度が低く、現有の引っ張り試験機では物性の正確な測定が困難であった。そこで、荷重計測精度が高い新鋭万能試験機を導入して、安定した結果が得られる測定条件を決定した。また、従来独立に用いられてきた荷重-伸び解析法と応力緩和法とを、同一試料に連続的に適用するプログラムとインターフェイスを開発し、効率的な測定を可能にした。さらに、試料を効率よく調製するために、芽ばえの最適な生育条件について検討した。これらにより、物性を指標としてシロイヌナズナのゲノム機能を網羅的に解析するための基本的な条件を確立できた。 本研究で確立した物性測定条件を、細胞壁、細胞膜、並びに表層微小管の構造、代謝、あるいは機能に変異を生じたシロイヌナズナ系統の胚軸の物性解析に適用し、その有効性を検証した。様々な変異体のうち、XTHノックアウト変異体及びZIMの過剰発現体では、胚軸の成長速度の変化やキシログルカンのレベル、分子サイズ、及び代謝回転の程度と見合う細胞壁物性の変化が検出された。また、α-及びβ-チューブリン変異体、微小管結合タンパク質(morl、spr1、spr2、MAP65、カタニン)変異体、hmg変異体などでは、胚軸の伸長成長が様々な程度に抑制され、細胞列のねじれや肥大成長の促進が認められたが、成長パターンの変化の程度に応じて細胞壁伸展性の低下が起きていることが確認された。このように、本研究で確立した測定方法がシロイヌナズナ胚軸の物性の網羅的な解析に非常有効であることが示された。
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