平成18年度は、まず培養の容易なマウスES細胞を研究材料に、未分化状態とその分化過程で特異的に発現しているタンパク質のプロテオーム解析を行った。マウスES細胞はLIF(Leukemia inhibitory factor:白血病阻害因子)存在下で、未分化状態を維持しながら増殖培養することができるが、LIFを除くとES細胞は徐々に分化していく。LIF除去した後何日間で未分化性を喪失するかを確認するため、未分化マーカーのひとつとして汎用されるアルカリフォスファターゼの活性染色をしたところ、LIF除去後数日かけて徐々に分化してゆくことが確認された。そこで、LIF存在下あるいは非存在下で培養したES細胞の核と細胞質からタンパク質抽出液を調製し、2次元電気泳動で変動のあるタンパク質を質量分析により解析した。+LIFの核抽出液を緑の蛍光色素で、-LIFで7日間培養しほぼ未分化マーカーを喪失した細胞の核抽出液を赤の蛍光色素でラベルした後、混合し1枚のゲルで2次元電気泳動した。その結果、これまでに約100個の量的に変動するタンパク質を検出し、特に核画分における主要な未分化特異的因子として実際にいくつかのクロマチン関連タンパク質を見出した。ES細胞や卵子の細胞質には、体細胞ゲノムを幹細胞ゲノムへ再プログラム化し得る因子が存在することが示唆されている。ごく最近では、カエルの卵母細胞の系で、再プログラム化(脱分化)因子のひとつがDNA結合タンパク質やクロマチンを修飾する酵素であるとする結果も報告されている。このような幹細胞特異的な遺伝子発現を制御するシステム自体の解明は「幹細胞とは何か?」という本質的な問題に対する答えに直結すると思われる。タンパク質複合体で構成されるこのシステムは、プロテオーム解析によるアプローチで研究することが非常に重要であると考え、今回の解析で得られた変動タンパク質のES細胞における機能解析を進めている。
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