タンパク質の機能は様々であるが、その根幹をなしているのは他の分子との結合である。複数の分子からなるタンパク質複合体の基準振動解析において、各分子の重心間の相対位置が大きく変化するような基準振動のモードは複合体の解離をうながすものである。しかし、逆に考えると複合体の形成反応に最も強く関連している"結合モード"であるといえる。われわれは、PDBに登録されたタンパク質について基準振動解析の結果を蓄積し、データベースProModeとして公開しているが、現時点ではモノマー及び複合体中の各サブユニットに関するデータに限られている。 本年度は、第一段階として、タンパク質2量体の基準振動解析を行った。まず、PDBに登録されている複数鎖の系についてもシステマティックに一連の解析を行う必要があり、計算プログラムの自動化、種々の例外データへの対応を行った。複合体中の1分子に対してEckart条件を適用する機能を実装し、各分子に対する内部運動と外部運動を分離して解析できるようになった。異種2量体や同種2量体でもPDBでの立体構造が異なっているものはこれまでと同様に解析を行った。完全に対称的(P2)な同種2量体に対して対称な基準振動を得るために、2分子間の対称性を保持したままエネルギー極小化計算を行うプロトコルを開発した。実装は来年度になる。 解析例はまだ数十個なので帰納的な解析ができるわけではないが、どの複合体も結合部位における内部運動と外部運動の相関は負になっており、結合部位の原子の相対配置の変化が小さくなる傾向が見てとれた。小さいペプチドでは外部運動と内部運動の大きさは同程度になっているが、RNaseS+S-peptideのように比較的容易に解離する系では外部運動が内部運動に比べて大きくなっていた。
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