本研究は、我々が開発したヒト人工染色体(HAC)を新規遺伝子発現ベクターとして実用化することを目的に、遺伝子の系統的な挿入法と、レシピエント細胞への効率よい導入(デリバリー)法の開発を課題としている。平成17年度は1)目的遺伝子をHACベクターにクローニングする方法の確立と、2)HACを細胞より単離・精製する方法の開発を行った。 1)HACへの遺伝子挿入には、あらゆる大きさの配列への対応を可能とするために、BACベクターにクローン化された100キロ塩基対以上からなる複数種の遺伝子配列(制御領域やイントロンを含む)を材料として、HAC中に設置したCre/lox組換え部位に対して特異的かつ確実に挿入する方法の開発)を行った。大腸菌内での相同組換えシステムであるRed/ET法を利用して、BACクローンDNAにHACとの相同組換えに必要な配列を付加した。精製後のBAC-DNAをCre酵素をコードしたプラスミドDNAと同時にHACを保有する細胞株に導入した結果、HACの組換え部位に、目的の配列が高頻度で挿入された。この結果、100キロ塩基対以上の長さのDNA配列をHACの一定の場所にクローン化する技術を確立した。 2)HACを細胞より単離・精製する方法の開発においては、分裂期に同調した細胞からHACを含んだ凝集した染色体をポリアミンバッファー中に回収し、スクロース密度勾配遠心による単離を行った。1ステップの簡単な密度勾配遠心により、HACは他の染色体から分離させることができた。さらに高純度な精製を目的に、FACSによるソーティングや免疫沈降法の条件を検討したが、スクロース密度勾配遠心に勝る結果は得られなかった。染色体構造を維持したHACの精製法として、スクロース密度勾配遠心法が優れていることを明らかにした。
|