本研究は、ヒト人工染色体(HAC)を新規遺伝子発現ベクターとして実用化することを目的に、遺伝子の系統的な挿入法と、レシピエント細胞への効率よい導入(デリバリー)法の開発を課題としている。平成18年度は、1)HACに搭載された遺伝子の発現制御を評価し、2)精製したHACの導入方法の開発を目指した。 1)HACに搭載された遺伝子領域の発現制御の評価 HACに搭載されたゲノム由来の遺伝子が、配列情報に依存した発現制御を再現するか否かを調べた。未分化細胞の維持には必須であるヒトSTAT3遺伝子(200キロ塩基対)をマウス胚性幹細胞内のHACに挿入した細胞株を樹立し、RT-PCR法により発現を解析した。ヒトSTAT3遺伝子は長期増殖後の胚性幹細胞においてもその発現が抑制されることなく、樹立時の発現量を維持した。この結果、HACに挿入したゲノム由来遺伝子は、本来のゲノム構造を形成し、発現制御を再現すると考えられた。 2)精製したHACの導入方法の開発 HACベクターを利用した新規遺伝子デリバリー法を開発するために、前年度に見いだしたシュクロース濃度勾配遠心によるHACの分離法を確立し、チャイニーズハムスターオバリー細胞から精製することに成功した。次に、精製したHACをDNAトランスフェクション試薬により目的の細胞へ導入する条件を検討した。その結果、ヒト培養細胞に再現的にHACを導入できることが証明され、その導入効率は、これまで唯一の方法であった微小核融合法の効率と同等以上であった。 以上の結果より、本研究目的を十分に達成できたと考える。
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