スフィンゴミエリンの代謝産物は細胞の生と死の調節に重要であることが知られている。スフィンゴミエリナーゼ(SMase)により産生されるセラミドは、細胞死誘導に関与し、また、スフィンゴシンキナーゼ(SPHK)により産生されるスフィンゴシン1-リン酸(S1P)は、細胞外に分泌されG蛋白共役型受容体(Edg/S1Pファミリー一)を介して様々な細胞にアゴニストとして作用し、細胞増殖・生存や細胞運動に重要な役割を果たすことが示されているが、その詳細なメカニズムは明らかでない。本申請課題では、SPHK/S1P系と他の細胞内シグナル伝達系とのクロストークについて検討し、S1P受容体シグナルがホスホリパーゼD(PLD)、PI3K/Akt系の生存シグナル系を活性化し、アポトーシス抑制に関与することを初めて示唆した。SPHKアイソザイムの特異的抗体を用いて細胞内局在や組織内分布を検討し、精子の先端に特異的に局在することを見いだした。白血病細胞HL60の好中球への分化誘導過程におけるSPHK1の関与を明らかにした。また、SPHKの細胞機能における役割を明らかにするために、免疫系細胞における細胞死との関連性を検討し、SPHK1の過剰発現により細胞死が抑制されることを見いだした。さらに、抗がん剤耐性とSPHK1活性の高発現の関連性を明らかにするために、前立腺がん細胞や白血病細胞で抗がん剤処理による細胞死誘導に抵抗性を示す細胞と非抵抗性細胞におけるSPHKの活性を比較検討したところ、SPHK1の高発現と抗がん剤耐性の関連性が示唆された。さらに、抗がん剤に対するIC_<50>の高いがん細胞ではセラミド産生が低く、抗がん剤による細胞死に抵抗性を示した。一方、IC_<50>の低いがん細胞は、抗がん剤処理によりセラミド産生が高くS1P量の著しい低下がみられた。これらの結果から、セラミド産生とS1P量の変化はケモテラピーの指標になることが示唆された。また、SPHK1のsiRNA処理により細胞死が促進されたことから、SPHK1が抗がん剤のターゲットになることが示唆された。
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