研究概要 |
本年度は最上川上・中流域、阿賀野川上・中流域で、関係する漁協や保護活動家などの協力を得ながら、ウケクチウグイの生息と産卵に関する情報収集と現場での実態調査を行った。前年度は記録的暖冬で降雪が異常に少なかったせいで、ウケクチウグイの動態も異常であった。すなわち、最上川水系で唯一知られている上流の産卵場では、春の産卵期になってもウケクチウグイが全く集まらず、産卵行動が観察できなかった。最上川中流では、たまにウケクチウグイが少数採捕される場所で、本年度は全く採捕されなかった。本年度は、ウケクチウグイだけでなく同じ場所に生息するアユなどの他の魚類でも異常な動態が観察された。温暖化はウケクチグイのような冷水系の絶滅危惧種には特に大きく影響し、その絶滅を加速するおそれがあると考えられた。 一方、国交省関連の阿賀野川の生物調査を行った保護活動家から、この2,3年間に上・中流域で採捕されたウケクチウグイ25個体のサンプルを供与された。そこで、これらの個体からmtDNA調節領域配列およびマイクロサテライトDNA多型を検出し、ウケクチウグイと同所的に多数の個体が生息するウグイとともに、最上川と阿賀野川の標本群で比較解析した。2つの異なるDNAマーカーの解析結果から、両水系のどちらの標本群でもウグイに比べてウケクチウグイの遺伝的多様性が桁違いに低く、集団内で近親交配が進んでいることが示唆された。また、両水系は隣接しているが、両水系のウケクチウグイは大きく遺伝的に分化しており、異なる集団として古くから進化してきたことが明らかになった。以上より、今後ウケクチウグイの保全対策を講ずる場合には、両水系の集団をそれぞれ保全の単位として、それぞれの水系で保護して行かなければならないこと、保護のためには、決して両水系間での個体の移植放流はしてはならないことなどが明らかになった。
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