和歌山県日高郡みなべ町千里の浜で採取したアカウミガメ卵を用いて、まず1)発生学的・生化学的に卵殻の白濁現象と胚の役割(固着)を調べるために、産卵14時間後と22時間後に卵を90°転卵処理して、胚の固着と卵殻の白濁の関係および艀化率の変化について調査した。次に2)野生下の産卵巣周囲の砂中温度と水分含量および産卵巣内の湿度を継続的に測定して、適正な艀卵条件を解析するためにロガーによって記録した。さらに、3)姫路市立水族館のアカウミガメ3頭の血清中の性ステロイドホルモン濃度の動態をEIA法により調べ、飼育海水温との関係について検討した。 1)ウミガメ胚は、産卵後約1日目以降に胚が位置する卵上部で固着したが、卵殻の白濁は胚の位置とは無関係に産卵直後の頂点から進行し、昨年度の研究と同じ結果が得られた。本年度の研究では人為的胚の固着位置を変えることができたことから、胚の白濁は産卵直後から既に開始されて、胚の呼吸等により起こるものではないことが明らかとなった。さらに、SDS-PAGEにより発生を開始した卵の卵白を用いて卵白タンパク質を解析したが、発生過程が進行するに伴いバンド数が多くなり、卵白の水溶化現象の一部が確認できた。 2)ロガーを設置した自然下での移植巣からは孵化が全く認められなかったため、卵の胚発生状況を確認したところ、孵卵5日目から14日目の初期発生段階で死滅していた。胚発生を中止したと思われた時期には、移植巣周辺の砂中水分含量が急激に上昇しており、これらが原因となり初期胚の段階で死滅したものと考えられた。今年度は、結果的に胚発生が中止された産卵巣についてのデータしかえられなかった。 3)飼育下の雌の血中エストラジオール17β濃度および雄の血中テストステロン濃度は、飼育海水温が低下する9月から2月にかけて上昇し、飼育海水温が上昇する5月から7月にかけて低下した。なお、雌のプロジェステロン濃度は、2月から5月にかけて上昇した。
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