研究概要 |
フィールド調査(イワテヤマナシは自生種それとも導入種?) 研究分担者の大阪市立大学植松千代美講師のグループと東北地方におけるイワテヤマナシの分布調査を青森県、秋田県にわたって6月、8月、9月の合計3回行った。これまでに青森県下北半島と秋田県白神山系、鳥海山付近を除く全市町村にわたる調査が完了した。その結果イワテヤマナシは北上山系の北端、青森県南西部の階上岳を境にした北部地域ではごく僅かしか存在しないことがわかってきた。また秋田県では山間部ではほとんど存在していないことも分かった。これらの結果はイワテヤマナシの分布の中心が北上山系に限られる可能性が高いことを示している。北上山系で多く現存していたことからイワテヤマナシは自生種である可能性を示唆した。また果実の形態形質の比較からも北上山系の高地に存在するナシは小果で萼が宿存しておりイワテヤマナシの特徴を持つ個体が多くみつかった。しかし青森県、秋田県で見つかったナシの果実は大果系で萼の宿存が見られない個体が多く明らかに差異があった。 DNA分析による青森県、秋田県由来のナシの系統関係 ニホンナシグループとセイヨウナシやその他のナシグループを識別する2種類の葉緑体DNAマーカーの作成を行った。PCR法により岩手県、青森県、秋田県由来の収集系統のDNAタイプを調査した。その結果、全収集系統中、約8割の個体がニホンナシ型の葉緑体DNA構造を持つことが明らかとなり、イワテヤマナシとニホンナシの雑種が多く含まれていることが示唆された。また青森県南西部地域から収集した系統にはニホンナシ型とは異なるDNAタイプを持つものが比較的多いことも分かってきた。次年度はより多くの識別マーカーを作成し、分布の特徴を明らかにする。 方香性物質の同定 研究分担者の岩手大学菅原悦子教授のグループとイワテヤマナシ果実の芳香性物質をGC-O, AEDA, GC-MS解析により調査した。官能評価で特に香りが強く感じられた系統のGC-O分析の結果、100種類以上の揮発性成分が存在した。ニホンナシの幸水やセイヨウナシのラフランスといった対象品種と比べて2倍以上の揮発成分が含まれていた。イワテヤマナシのAEDA分析から8種類の香りを構成する成分を特定した。
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