本年度も東京海底谷における深海性軟骨魚類の多様性と食地位及び日本海のガンギエイ類2種の生活史特性の解明を行った。まず、東京海底谷では現在までの所水深150-500mの水域から31種に及ぶ軟骨魚類を採集した。ヘラツノザメについて、背鰭前縁の棘断面により年齢査定を行ったところ、調査個体の最高年齢は9歳で、他の軟骨魚類よりは成長が早いことが判明した。また、希少種ミツクリザメの椎体による年齢査定では、他の深海性軟骨魚類同様成長はきわめて遅いことが判明した。最高齢は25歳と推測された。また、東京海底谷における食物連鎖解明の一端として、安定同位対比による食地位を23種157個体の軟骨魚類について解析した。C-Nマップで見ると、全頭類と板鯉類のエイ類ではδ^<13>C及びδ^<15>Nともに高い位置にあり、ベントス系列を示したのに対し、サメ類では植物プランクトンからベントス系列までの幅広い食地位を示した。日本海の浅海域で重要な役割を演じているガンギエイについては、食性と繁殖及び年齢と成長について調査した。まず、高位分類から見た食性では、出現頻度が最も高いのは甲殻類で、次いで魚類となり、軟体類は最も低かった。どの全長範囲でも、また季節的にもエビ類がもっとも多く出現し、特にコシオリエビ科のものが多かった。全長が増加するにつれ、魚類や頭足類のような大型生物の出現率が高くなる傾向が見られた。餌生物重要度指数(IRI)でみると、エビ類の値が図抜けて高く、ガンギエイ類はエビ類を主要な餌として摂食すると推定された。本種の胃内容物からケガニ、ニギス、マダコなどの重要漁獲対象種が出現した。年齢形質としては椎体を用い、年輪形成パターンを調べたところ、輪紋は年1回8月に形成されるものと推定された。各個体の大きさから年齢を求めたところ、最高齢は雄では12歳、雌では13歳となった。生殖腺の大きさや長さから推定した成熟全長は、雌雄とも500mm前後で、産卵期は長期に及ぶと推測された。
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