予定通り、夏季(8月4日〜9月5日)に1ヶ月余の現地調査をインドネシア(中部ジャワ州スマラン、首都ジャカルタ、リアウ州タンジュンピナン)及びシンガポールで行なった。 I.継続調査の拠点であるスマランでは、和合会館、大覚寺廟、三宝廟などを本拠に、コミュニティ変容の現況を観察した。ちょうど鄭和来航600周年の祝祭が行なわれていたが、スハルト政権期のように華人社会内で密かに執り行われるのでなく、インドネシア人一般の眼にも触れる形で盛大に催されているさまに驚いた。北京の教育機関と提携した中国語学校も開校するなど、「中国文化の解禁」に華人社会が迅速に対応している様子を確認した。 II.首都ジャカルタでは、国立図書館や国立公文書館、インドネシア科学院、国際戦略問題研究所などの機関で情報収集に当たったほか、1998年に反華人暴動の舞台ともなったコタ地区の現況や、全く新たな華人の集住地(生活空間)としての高層モールの状況なども視察した。 III.新規の調査地であるタンジュンピナンでは、街全体の成り立ちとその中での華人たちの生活状況の概要把握に努めた。街の中心部で商業などに従事している人々とは別に、海岸部で水上集落を作っている華人たちの存在を初めて知り、驚いた。現地の人々の間で「ムラユ華人/シンガポール華人/マンダリン華人」という三分法がなされていることなど、ジャワ地域と全く異なるあり方に、今後のさらなる調査の必要を改めて感じた。 スマラン、ジャカルタ、タンジュンピナンを問わず、インドネシアのどこでも、人々の行き来、商品の流入、情報(ラジオ、出版物、携帯電話、インターネット等)の各面で、国外とりわけアセアン諸国や中国・台湾との物理的・心理的距離が4〜5年前と比しても格段に縮まっていることに印象づけられた。このほかシンガポールでも文献収集や聴き取り調査を行なった。
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