研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、ロシアを一つの資本主義の型とみる視点から、政治・経済・社会の利害相関メカニズムを解明し、ロシアにおける市民社会の形成過程を跡づけることである。本研究を通じて、以下の点が明らかとなった。第一に、ロシアにおける人間開発の特徴は、経済発展段階に比して、教育水準の異常な高さと平均寿命の異常な低さが観察されることである。国連開発計画の人間開発指数にもとづく分析を通じ、こうした人間開発のパターンはソ連期の資源配置に規定されていることが推察された。第二は、体制転換にともない、中央と地方自治体との関係に変化がみられることである。両者の関係は、中央からの地方の独立を特徴とする西欧型が目指されたが、実際には中央の影響力は相対的に強く残された。さらに、近年の改革によって、中央集権化がさらにすすめられ、自治体は下からの民主主義実現のための組織というより、国家行政機構の一部としての性格を強めていることが確認された。最後に、企業と地域社会との密接な関係が再生産されていることである。ロシア企業は本来の経済的機能に加えて、企業内福祉を提供する地域・社会的機能をソ連の遺産として有している。民営化により一部の社会的機能は地域に移管されたが、このことは雇用と税を介した企業と地域との結びつきの強化を意味している。企業と地域との密接な関係は、未成熟な市民社会と相まって、企業および地域のリストラを遅らせる原因ともなっている。以上のように、現在のロシアには西欧諸国のような成熟した市民社会が形成されているわけではなく、社会主義期の遺産や体制転換過程の特徴を反映した独自な社会構造が編成されていることが明らかとなった。他方で、ロシア社会と各経済主体の利害との間には、対立とともに利害調和が併存しており、そのことがロシア社会に一定の安定性を付与していることも示された。
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Newly written
Institutional Transition and Local Self-Government in Russia, Kyoto Institute of Economic Research, Discussion Paper No.640
ページ: 23-40
Institutional Transition and Local Self-Government in Russia, Kyoto Institute of Economic Research, Discussion Paper No. 640
滋賀大学経済経営研究所編『彦根論叢』 359号
ページ: 21-40
中國復旦大學國際問題研究院、日本國島根縣立大学編『東北亜経濟合作與中日韓外交』
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ロシアNIS貿易会編『ロシアNIS経済速報』 No.1383
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The Institute for Economic and Business Research Shiga University ed., Hikoneronsou No. 359
The School of International Relations and Public Affairs, Fudan University and The University of Shimane eds., Economic Cooperation in Northeast Asia and Diplomacy of China, Japan and Korea
Japan Association for the Comparative Studies of Management ed., Kaisha to Shakai : Hikaku Keieigaku no Susume
Japan Association for Trade with Russia and NIS ed., Roshia NIS KeizaiSokuhou No. 1383
The Japanese Society for Comparative Economic Studies ed., The Journal of Comparative Economic Studies Vol.1
ページ: 25-58
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海外投融資情報財団編『海外投融資』 11月号
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The Japanese Society for Comparative Economic Studies ed., The Journal of Comparative Economic Studies Vol. 1
The Society of Political Economy ed., Kikan Keizairiron Vol. 42, No. 3
Japan Institute for Overseas Investment ed., Kaigaitouyushi No. 11
島根県立大学総合政策学部紀要『総合政策論業』(原論文を修正の上、2008年度中に掲載確定)