1.本研究は、南米南部地域における、(1)輸送およびエネルギー部門における多国間のインフラ統合を軸とした「地域公共財」の形成を実証的に明らかにすることともに、(2)同地域における産業リンケージ、クラスター形成、物流の効率化等の関連性を調査し、「市場統合」と「インフラ統合」の相互促進性を解明することを目的としている。 2.予備的調査の結果、初年度は具体的事例としてエネルギー部門の「天然ガス」を取り上げることとした。その理由は、(1)地域全体としては埋蔵量が豊富で需要をまかなえる状態にあるものの、(2)産出地および消費地が距離的に離れており、インフラ(産業基盤)としてガスパイプラインの敷設が不可欠なこと、(3)天然ガスの探鉱・開発・生産・輸送、いずれをとっても莫大な資金と技術が必要であり、産業アクターとして欧米の多国籍企業に依存するところが「大」であること、(4)生産地=消費地間には「国境」に加え、国民国家として各国の「政治事情」「外交事情」が働いており、さらに(5)競争重視のネオリベラル(新自由主義)的な経済政策の反動もあり、「天然資源の利用は国家の手で国民へ」という論調が復活しつつあること--などから、「天然ガス」を「地域公共財」として取り扱うための諸条件を検出するうえで格好の材料であると判断した。 3.「天然ガス」の需給および産業実態、同資源をめぐる論調・議論把握のため、この分野の比重が大きなブラジル、アルゼンチン、チリ、ボリビア等の政府機関、業界、研究機関等を実地調査すると同時に、文献やデータの収集・分析を行った。 4.成果の一部は、2006年3月27日〜28日に国立民族学博物館地域研究交流企画センターおよび上智大学イベロアメリカ研究所共催の国際シンポジウム「連携するラテンアメリカ諸国-経済統合と安全保障」において、「南米における天然ガス:統合をめぐる政治経済学」と題して発表した。
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