研究概要 |
本年度は基盤整備と資料収集を中心に調査研究を実施した。海外研究協力者(リワルン氏、サリビオ氏)の協力を得て、9月前半、ミンダナオ島南ラナオ州マラウィ市のダンサラン学院ピーター・ガウィン記念研究所図書室に未整理状態で保管されているマラナオ語アラビア文字資料約200点の調査を開始した。その大半は、1960〜70年代に現地のイスラーム指導者がムスリム大衆向けに謄写版印刷により発行したイスラーム物語やイスラーム入門書であり、当時のイスラーム知識人が民衆に何を伝えようとしていたかを知る手がかりを与えてくれる貴重な資料である。研究代表者帰国後は現地の研究協力者がこの作業を継続し、本年2月、これらの資料の解題付き目録の草稿を完成した。 9月後半には、研究代表者とリワルン氏がマニラ首都圏(フィリピン大学、フィリピン国立図書館、フィリピン国立博物館等)で資料調査、文献収集、研究者との意見交換を行なった。 さらに、マラナオ語の有名なイスラーム物語である『バラプラガン』(全7巻)の1,2巻について、ローマ字への翻字と英訳を行ない、草稿を完成した。また、アラビア語専門家の協力を得て、1960年代にエジプトに留学していたマラナオの学生が執筆したアラビア語論文集『新しい黎明』の一部を和訳した。これはマラナオ語資料ではないが、マラナオのイスラーム運動やそれを支える思想について当事者が作成した重要資料なので、本研究で扱うことにした。 文献目録作成や翻訳作業に予想以上に時間がかかったため、口承文学の収集・調査は十分に行なうことができなかったが、1960-80年代に作成された民衆歌謡のカセットテープとレコード数点をマラウィ市内やフィリピン大学音楽部図書室などで収集することができた。次年度は、資料調査・収集、及び、選択的な翻字・翻訳を継続するとともに、それらの内容や、作成・流通の社会的政治的背景について調査研究を行う予定である。
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