研究概要 |
本年度はマラナオ語とアラビア語のイスラーム出版物の収集、目録作成、調査研究を継続するとともに、口承文学の収集にも着手した。8月10-17日のフィリピン現地調査では、ミンダナオ島南ラナオ州マラウィ市のダンサラン学院ピーターガウィン記念研究センターにおいて、海外研究協力者(リワルン氏、サリビオ氏)、および、アドバイザーのウラマー(イマーム氏)とともに、収集資料の整理、昨年度作成した目録草稿の改訂、解説論文執筆と目録刊行に関する打ち合わせを行なった。また、マラウィ市と近郊において、イスラーム出版物の作成・流通に関与した人々への聞き取り調査を行なった。マニラでは、教育省、フィリピン大学などで資料収集を行なった。 11月にはマニラ首都圏マカティ市で開催された国際歴史学者学会(IAHA)第19回大会に出席し、「アジアにおけるイスラーム思想、公式制度、民衆文化」のパネルにおいて、本研究の成果に基づき「Baraperangan, A Popular Islamic Story of Maranaos : An Inquiry into the Grass-root Islamic Thought in Mindanao」と題する報告を行い、司会者のサムエル・タン氏(元フィリピン大学歴史学部教授)をはじめとする参加者と意見交換を行なった。リワルン氏も同大会に参加し、フィリピンや外国の研究者と活発に学術交流を行なった。学会終了後、マニラ首都圏のムスリム・コミュニティにおいてイスラーム学校や書店を訪問し、資料を収集した。 3月11-21日のフィリピン現地調査では、マラウィ市において民謡(バヨク、ダラガン)、クルアーンの朗詠(旧式、新式)、ジクル、民話(トトル)を音声と映像で記録し、仮編集の上、DVD1点「Padanadem Ko Mona」を作成した。マラナオのイスラーム口承文学を学術的見地から記録した映像はこれまでにほとんどないので、この映像は貴重な資料である。次年度、本格的に編集し、テキスト転写を行なう予定である。マラウィ市、マニラ首都圏で資料収集、関係者への聞き取り調査を継続した。 また、中東イスラーム研究者の堀井聡江氏の協力を得て、1960年代在カイロ・フィリピン・ムスリム留学生の論文集『新しい黎明』のアラビア語から日本語への翻訳作業を継続し、解説を付して雑誌に発表した。 資料収集と目録作成には、予想以上の時間がかかるが、少しずつ着実に進展しており、最終年度である次年度には、目録を完成するとともに、一部の資料の翻字・翻訳を行ない、研究論文を執筆する予定である。
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