本研究の目的は、日本と韓国で成立したDV防止法の制定過程を、市民の関与する政策ネットワークに焦点を合わせて比較研究することである。 両国のDV防止法は市民の力無しには成立し得ない法律であったこと、国連の取り組みが影響していることなど、共通点が顕著であると同時に、多くの違いがあることもわかった。 韓国ではNGOの政策への影響力が強く、ジェンダー平等政策についてはそれが一層顕著である。日本では一般にNGO等市民の影響力は強くないが、DV防止法に関しては男女共同参画審議会暴力部会と、国会議員プロジェクトチームが議論のアリーナとなり、多くの被害者救済の専門家やNGO、研究者などから情報・要望と本格的な法律案が寄せられたことが制定の力となった。 韓国の日本との違いは以下a〜cのようにまとめられる。a.この法制定に関わったNGO「女性の電話」「韓国女性団体連合」が専門家と連携して政策提言を行っていく新しい社会運動としての性格と、全国規模の連合を形成し、年度計画で統一的な運動を展開するという旧型の社会運動の性格を併せ持っており、その背後には「圧縮された経済発展」があること、b.ともに民主化運動を行った人々が各方面で重要な地位についているために広い連携が可能であること、c.メディアを積極的に利用し強力な世論形成に成功したことなどである。このような違いには以下のような要因があると思われる。民主化を市民自身の手で成功させ、その時期が、環境や女性など国境を超える公共利益的課題が増大した時期と一致していたこと、民主化後の行政課題を担う人材とシステムが、軍事政権下では十分に発達してこなかったこと、民主政府が前代の政権との差別化を明確にし内外に印象づけるために、NGOを積極的に政権に組み込んだこと、などである。 今後は両国の違いが、成立した法律とその後のDV防止政策にどのように影響したかが研究課題となる。
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