研究概要 |
本研究者は、現在の日本のコンピュータを介したコミュニケーションにおいて、男女間のヒエラルキーから解放されたコミュニケーションの可能性、および、現実世界の支配的配置の再構成の可能性が現れている局面を探求することを目的として、平成18年12月-平成19年3月の期間、REAS(Realtime Evaluation Assistance System)を利用しインターネット上のアンケート調査を実施。MMORPGのプレイヤー105名に、インターネットにおけるジェンダー・スウィチングの経験の有無、および、その経験の現実の自己や生活への影響等について尋ねた。平成19年度は、この調査結果を手がかりに日本のインターネットにおける自己およびジェンダーの状況について考察を試みた。 まず、自己のあり方について見てみると、ジェンダー・スウィチングの経験はないが、MMORPGで現実生活の自分とは異なる自分を経験できると答えた「男性」回答者に、「自己の多元化」に拠って立つ「新たな意味形成」の可能性が鋭敏に感じ取られ意識化されていることが見て取れた。一方、ジェンダー・スウッチングの経験について見てみると、現実のジェンダー秩序において不利な立場に置かれている「女性」の方に、現実とは異なるジェンダーでの経験に拠って立つ「新たな意味形成」に敏感で意識的な様子を見て取ることができた。これに対し、「男性」には、先のジェンダーが関わらない場合とは異なり,「新たな意味形成」に困難を感じている様子が認められた。しかし、そうした困難を乗り越え「新たな意味形成」が行われたことを示す回答もあり、その可能性は閉ざされたものではなかった。今回の調査結果は、それが大勢をなしているとは言えないものの、現実のジェンダー・ヒエラルキーから解放されたコミュニケーションの実現とそれによる現実世界の再編の可能性を示唆するものと言えるであろう。
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