本年度の研究は、主に、2点ある。第1は国際比較の視点から「老後生活費」について分析した最近の研究(英語文献)を調べたことである。第2は、8月27日から9月9日まで行ったデンマークの高齢者住宅の見学およびデンマーク統計局資料室での高齢者人口および介護サービス受給者に関するデータ収集である。ここでは特定文献から得られた事実の概要について述べていく。 国際比較の視点から高齢期の所得分析を行っている文献のうち、2005年に刊行されたものには、OECDによる『1990年代後半のOECD諸国における所得分配と貧困』(Income distributuion and poverty in OECD countries in the second half the 1990s)がある。これは、各国の2000年時点の家計調査と他のミクロ・データセットを用いて、人口全体と各年齢層の所得分配及び所得水準について分析しており、本研究にとっても、参照すべき所見が多く含まれている。特に、引退期の年齢層への各国の年金改革の影響については、これまでの長期的パターン、即ち高齢者の経済的状況の著しい改善傾向と異なる傾向を示唆するなど興味深い言及がなされている。日本の現状分析について数点あげると、こうである。(1)各国の高齢者の相対的所得は、家族構造と社会保障制度の両方を反映している。家族構造に関して言うと、世帯主が高齢者の世帯で暮らしている人々の3分の1は一人暮らしであり、ほとんどが不就業である。一人暮らしの高齢者は高齢期の平均余命の長さとパートナーとの別離や死去後の新しい結婚生活に入る可能性の低さを反映して多くが女性である.(2)家族人数と構成を調整して推計された等価可処分所得中央値の50%以下の所得層を貧困層だと定義すると、76歳以上の高齢者のこの割合がOECD平均値(8.7%)よりも高い国は、日本(12.7%)やギリシャ(13.9%)などである。
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