研究概要 |
本年度の研究の成果は主として2点ある。一つは、ルクセンブルク所得研究所(以下,LISと省略する)が開催している夏(6月終わりから7月初めにかけて)のワーク・ショップに研究協力者を派遣し、LISが提供している諸外国の所得と消費支出に関するデータの特徴およびデータの利用方法などについての講義を受け、実際にデータ分析の作業を開始したことである。もう一つは、一橋大学社会科学統計情報研究センターミクロデータ分析セクションにおいて募集している総務省統計局の「全国消費実態調査」データ利用に応募すべく、集計様式などを整え、諸書類を提出したことである。後者の「全国消費実態調査」データによる集計は予定として来年度の5月半ば以降になるため、本報告では集計作業を終えているLISデータのうちイギリスの結果についてのみ報告したい。 本研究は日本と諸外国との比較を行うことが目的であるが、比較の方法において、日本の先行研究で指摘されている最も考慮すべき点が分析単位である。すなわち、相対的貧困率およびある基準年と比較した絶対的貧困率を世帯単位で推計するか世帯員数(個人単位)で推計するかといった問題である。この分析単位に関しては、所得をめぐる世帯内配分とも関連して、議論が分岐する事項ではあるが、本研究では比較分析という観点から一般的に用いられている方法を踏襲し、個人単位の貧困率を推計した。また、その個人が属している世帯についても試行錯誤を重ねた結果、男女別に5類型(単身、夫婦のみ、有配偶の子と同居、無配偶の子と同居、その他)に分類して集計した。イギリスのデータは2万5千弱の世帯をカバーしている、Family Resources Survey(1999)である。このうち65歳以上の男性は4142人、同年齢の女性は5260人、65歳以上の男女計が9402人である。65歳以上の男性の相対的貧困率(世帯人員を調整した上で中位所得50%以下の人の割合)は13.4%、女性のそれは20.0%であった。両性共に単身世帯の貧困率は高いが、女性の方が7%も高い。また、75歳以上になると単身女性の3割が相対的貧困に陥っている。男女別および所得水準別(下位、中位、上位)に各所得要素の割合を算出すると、下位グループと中位グループの女性は男性と比較して、total means-tested incomeの割合が高く、private occupatjonal incomeの割合が低い。性別によるこのような相違は、両性間の職業歴の相違を投影しているものと考えられるが、今年度はさらに分析を深めて考察していく予定である。
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