研究概要 |
平成19年度は,第一に、平成17年度の成果である「知覚的経験の規範性」を,哲学的反自然主義的描像に組み込んだ著書『現代哲学の戦略-反自然主義のもう一つ別の可能性』を出版し、知覚における概念性の議論を進展させた。第二に、現象学的知覚論、特にハイデガーの『存在と時間』における道具知覚に大きな焦点を置いた。論文「ハイデッガーと表象主義」は、日常的道具使用の場面におけるハイデガーの反表象主義的な思考を明らかにし,さらに現代の力学系理論と比較しつつ,新たに提起されつつある、知覚についてのクラークらの表象主義からの可能的な批判から反表象主義とハイデガーを擁護した。さらに同時に,認知神経科学からもたらされている「二重視覚システム論」を、ハイデガーの反表象主義を支える議論としてハイデガーの議論を明らかにしつつ提示した。また、アメリカ哲学会太平洋支部の特別セッションで口頭発表した(2008年3月22日),"Ontology and Tchnoogy of the Invisible"においては、ハイデガーの日常的な道具知覚を、透明な見えないものの知覚ととらえた上で、マーク・ワイザーや坂村健によるユビキタス・コンピューティングに含まれる「周縁(periphery)の概念と、透明な道具知覚の背景となるハイデガーの世界概念とが親縁なものであることを立証し、その上で、ユビキタス・コンピューティングに内在する問題性をハイデガーの世界論・技術論の立場から明らかにした。
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