研究概要 |
本研究は、(1)感覚与件のような従来の経験主義的な経験概念に依存することなく,(2)知覚を行為と切り離すことなく、(3)近年の認知神経科学による知覚研究の成果をも顧慮しながら,哲学的知覚論の進展を踏まえた上で、知覚についての総体的な哲学的考察を遂行しようとするものである。具体的には、知覚経験の内容が概念的であるのか否か、知覚経験による信念の正当化が(基礎付け主義の想定したような形ではなく)成立しているとしたら、その正当化はどのような特性を持つのか、知覚と行為の関連をどのように考えるべきか、認知神経科学によって明らかにされつつある意識されない知覚の様式を、人間の認知活動の全体のうちにどのように位置づけるべきか、等の課題を明らかにすることを目的とした。 論文「知覚経験の規範性」は、「理由の空間」の概念を背景としながら、知覚が概念的であるか,基礎づけ主義以外の知覚の正当化をどう考えるべきかを、現代の認知科学的な知覚論をも考慮しつつ明らかにしている。さらに、論文「ハイデッガーと表象主義」は、ハイデガーの日常的実践における「配視」と「二重視覚システム論」との関連を論じ、アメリカ哲学会の太平洋地区例会においても発表された論文,"Ontology and Technology of the Invisible"(「見えないことの存在論とテクノロジー」)は、近年のユビキタス・コンピューティングの与える「見えない」環境の意味を,ハイデガーの哲学における「見えないもの」についての発想と比較しつつ明らかにしたものである。
|