1.今年度前期は、すでに公表済みのロックとバークリの観念説の比較研究の暫定的成果について、その方向性の再確認を行った。特に、ロックの「知覚表象説」(三項関係的認識論の枠組み)と「直接実在論」的契機(日常的な二項関係的観点)との関係を再検討することによって、観念本来の自然主義的論理空間の重層構造を確認し、さらに、バークリが心像論的観点からロックの「観念」を継承したこと、また、バークリの「存在することは知覚されることである」というテーゼが<観念は知覚されるときにしか存在しない>というロックの観念観を継承したものであることを確認した。 2.今年度後期では、バークリの自然科学に関する考え方について、検討を開始した。ところが、この研究を進めるうちに、バークリを接点として、ロックとカントを比較することにより、ロック的自然主義の変質の結果の一つであるカントの超越論的観念論の枠組みの論理構造を、先に確認することが得策ではないかと考えるに到った。その変質の一つの形が物質を否定するバークリの観念論であるとすれば、もう一つの形は「物自体」を認めつつ表象としての「経験的な物」を認識の対象とするカント的観念論であると考えられ、後者の論理を先に明らかにしておくことによって、ロックとカントの間に位置するバークリとヒュームの観念説の意味が一層明確になると考えられたからである。そのため、当初の予定を一部変更して、バークリの自然科学に関する考え方の考察と並行して、カントの認識論の枠組みの再考にかなりの時間を充てることとなり、その結果、カントの超越論的観念論がロック的な自然主義的観念説を基盤とし、それを歪める形で成立したことについて、その基礎的理解を得た。
|