研究概要 |
平成18年度前期は、前年度後半に開始したバークリの自然科学に関する考え方についての検討を、さらに継続した。バークリは、物質を否定することによってロック的な「物そのもの」を拒否しながら、「直接的知覚」の対象となるものとしての「物」、つまりロック的な「経験的対象」に関しては、その在り方と諸観念の生起との関係を「自然法則」として捉える視点を有している。もとより、バークリにとっても、ロック同様、「経験的対象」は観念の集合体にほかならず、したがって、バークリがここで言う「自然法則」は、観念間に認められる記号的規則性にほかならない。前期では、ヒュームを彷彿とさせるこうした自然法則の捉え方を解明し、バークリの観念説の論理の明確化を図ることが、試みられた。 平成18年度後期は、バークリが物質に代えて持ち出す「神」概念がどのような論理空間を有しているかを明らかにするよう試みた。ロックの観念説でも、神は重要な役割を果たすが、バークリは、物質ないし物そのものを拒否することと引き替えに、神に対してより重要な役割を担わせる。バークリにおける神のこの役割に検討を加え、物質否定によって空白となった論理空間が神によってどのような仕方で満たされたかを明らかにすることが、ここでの主眼となった。 以上の研究の一部は、日本イギリス哲学会第31回研究大会(2007年3月28日)のシンポジウムII「古典経験論と分析哲学」において、「古典的経験論と自然主義」としてこれを公にするとともに、ロックとバークリの観念説に関するこれまでの研究成果を改めて世に問い、内外の研究者からの意見を新たに求めるため、論集Yasuhiko Tomida, The Lost Paradigm of the Theory of Ideas (Hildesheim, Zurich and New York : Olms, 2007)を刊行した。
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