研究概要 |
ライプニッツによるスピノザ哲学に対する批判の意義を解明し、その批判を背景にしながら、スピノザ哲学の意義を照らし出すと共に、スピノザ哲学とライプニッツ哲学との体系的な比較研究を進める、という本研究の基礎作業として、本年度は、ライプニッツによるスピノザ批判関係文書の収集・読解・検討を集中して進めた。具体的な研究成果は以下の通りである。 1,全集・著作集に散らばる関係テクストの確定、編年的な整理、主題的な整理を、多くの研究書にあたりながら行った。 2,当該関係文書のうち、スピノザの『ラテン語遺稿集』(1677年)刊行直後にライプニッツの手によって記された『エチカ』関係文書、ならびに、晩年におけるスピノザ批判の重要なテクスト「スピノザ未公刊論駁」等の翻訳と検討を終えた。 3,以上の検討を通して、とりわけ次の二点に関して新たな知見を獲得し、本研究の基本的視点を据えることが出来た。 (1)スピノザの属性概念が、(ライプニッツの誤解に典型的な)伝統的な主語・述語概念による理解の枠組みには収まりきらない極めて独自の役割を有し、その表現の哲学の根底に位置すること。 (2)スピノザの内在性の哲学が、キリスト教の創造の論理の埒外にあるために(ライプニッツによる晩年の批判が典型であるような)多くの批判を呼び寄せること。 4,19世紀におけるFoucher de Careil, Steinから、Friedman, Deleuze, Belavalを経て、現在に至るまでの、当該主題に関する研究史を総括し、よりバランスのとれた研究の必要性を自覚するに至った。 5,『エチカ』全体の議論構成と基礎概念に関するスピノザ哲学の体系的研究も進め、とりわけ、『エチカ』第五部後半における永遠性の享受と論証の関係性とその意義、個体的本質の議論の意義、『エチカ』全体における備考の役割に関して、独自の視点を獲得するに至った。
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