本研究の最終年度にあたる本年度は、研究の締めくくりとして、研究公刊を目指しながら、過去二年間における研究を受け継ぎ、研究成果の総合を行うべく努めた。 1/ライプニッツによるスピノザ関係文書の、テクストの確定、編年的な整理、主題的な整理を終え、ライプニッツによる『エチカ』注解とカバラとの比較文書等の主立ったテクストの翻訳を完成させ、基礎的作業に関してはほぼ当初の計画を終えることができた。 2/これまで進めてきた、ライプニッツによるスピノザ批判の意義の検討、あり得べきスピノザの反論の検討を通して得られた成果を総合しつつ、近世スコラとの関係、および、デカルト哲学への二人の哲学者の反応に留意しながち、力の哲学としてのスピノザ哲学とライプニッツ哲学の体系的な比較研究の定礎を行った。その過程で、スピノザにおける力能概念がその量的把握を可能にするような独自性をもって導入されたこと、スピノザの原因概念が形相因と作用因との統合の意味を有すること、以上二点がスピノザ解釈に関する新たな論点として浮上し、これに関するライプニッツの議論との突き合わせの必要が強く自覚された。 2に関しては、多岐にわたる主題群に関する研究成果を全面的に統合して、一書として公刊するまでには、残念ながら未だ至っていないが、一義性(スピノザ)と類比=アナロジー(ライプニッツ)との対立・抗争という対立軸をもとにした研究書の公刊の準備を進めつつある。 なお、以上の研究成果に関しては、その一部を、2007年6月にパリで開催された研究者集会「日仏共同研究:デカルトの解釈者スピノザ:『デカルトの哲学原理』」、および、2008年3月に同じくパリで開催された国際研究者集会「スピノザと複数のスコラ哲学」において発表し、同様の関心を有する海外の研究者による本申請者の研究成果へのレヴューを受け、研究の最終的な調整を行った。
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