本研究は、ライプニッツによるスピノザ哲学に対する批判の意義を解明し、その批判を背景にしながら、スピノザ哲学の意義を照らし出すと共に、スピノザ哲学とライプニッツ哲学との体系的な比較研究を進めることを目的として進められた。ライプニッツ自身によるスピノザ哲学の評価という優れたコメンタリーの検討を通して、スピノザ哲学総体に対するより深い研究を行うことを中心的な課題とし、スピノザ的な内在性の哲学の可能性を解明した。具体的には、(1)ライプニッツによるスピノザ関係文書の目録作成を進めつつ、ゲプハルト版全集第1巻所収の『エチカ』関係文書、ライプニッツによる『エチカ』注解とカバラとの比較文書等の主立ったテクストの翻訳・検討を進めた。(2)ライプニッツによるスピノザ批判に対する、あり得べきスピノザの反論を検討しつつ、スピノザ・ライプニッツ間の体系的な比較研究を個々の論点毎に行った。具体的には、(1)神概念の肯定性:無限な属性によって構成される絶対的に無限な存在(スピノザ)、定義によって事象的に構成される存在(ライプニッツ)、(2)「精神的自動機械」の主題系、(3)個体の自発性:様態における個体(スピノザ)、モナドとしての個体(ライプニッツ)、(4)第二スコラの一連の概念に対するリアクション、(5)既にドゥルーズによるスピノザ研究によって解明されていることだが、ライプニッツ的な<類比の哲学>に対するスピノザ的な<一義性>の哲学の特質という五点に沿って検討した。その過程を通して、スピノザにおける力能概念がその量的把握を可能にするような独自性をもって導入されたこと、スピノザの原因概念が形相因と作用因との統合の意味を有すること、以上二点がスピノザ解釈に関する新たな論点として浮上し、これに関するライプニッツの議論との突き合わせの必要と力の哲学としてのスピノザ哲学とライプニッツ哲学との体系的な比較研究の重要性が改めて強く自覚された。
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