研究概要 |
平成17年度は,西洋古代哲学における「ディアレクティケー」概念の解明のために,その準備段階として,当該概念そのものの解明に資する資料を確保する作業を中心に行なった.特に,アリストテレスにおいては,プラトンとは異なり,「ディアレクティケー」の位置付けが,論証的学問よりも低いものと,従来,見なされる一方,アリストテレスの「ディアレクティケー」に独自の価値を認め,何らかの哲学の方法としての「ディアレクティケー」の位置を擁護しようとする解釈も近年顕著である.しかし,そのテクスト上の根拠は,間接的で不十分なままである.このことは,一方で,アリストテレスは,学問の方法としての,シュロギスモス(三段論法)の体系を提示しておきながら,厳密な意味で,それを実践した記述をアリストテレスの現存の著作集には見出せない,という問題とも関連すると思われる.というのは,J.バーンズのごとく,シュロギスモスによるアポデイクシス(論証)の方法は,探究の方法ではなくて,すでに探求を終えて明らかとなった事柄を,いわば,教え手が学び手に教授するための方法であるという極端な解釈をするまでもなく,探求の方法としては,多くの場合,演繹的推理であるシュロギスモスであるよりは,帰納的推理であるエパゴーゲーが用いられ,さらに,エパゴーゲーの一種であるとも考えられるアパゴーゲーにも,アリストテレス自身が言及していることが重要であり,これらの方法と「ディアレクティケー」との関係は,いまだ十分に解明されてはないと思われる.そこで,「ディアレクティケー」にかかわる推論の論拠と推論のプロセスに関して,蓋然性(probability)の意味の解明と問題探究の方法(aporetic method)の意味を解明した.
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