研究概要 |
平成18年度は,前年度に,準備段階として用意した西洋古代哲学における「ディアレクティケー」概念そのものの解明に資する資料に基づき,特に,アリストテレスの『形而上学』を中心とするコルプス(著作集)における学問の方法と,問答法としての「ディアレクティケー」の関係について考察を中心に行なった.とりわけ,「存在」について哲学的考察を行なうことを主要な任務とする『形而上学』の諸巻においては,以下のような特徴が見い出される.すなわち,実際に用いられる探求の方法としては,多くの場合,演繹的推理であるシュロギスモスであるよりは,帰納的推理であるエパゴーゲーか,あるいは,アポリアー(難問)を提示して,その解明の道筋を探求する方法,あるいは,問題探究の方法(aporetic method)がこれである.このことは,アリストテレスによれば,学問の方法に起因するのではなく,考察対象そのものが有する特性によって,我々の人間知性が,演繹的推理であるシュロギスモス以外の方法を用いざるを得ないように強いられている,と考えられる.その場合,用いざるを得ない方法として,帰納的推理であるエパゴーゲー,あるいは,アポリアーの方法と「ディアレクティケー」の関係について,アリストテレス『形而上学』Γ巻における矛盾律を否定する論者に対する論駁的な記述と,『トピカ』における「ディアレクティケー」の諸規定を比較考察することを通じて,「ディアレクティケー」の問題探究の方法としての側面が明らかになった.
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