研究概要 |
平成19年度は,前年度および前々年度に,準備段階として用意した西洋古代哲学における「ティアレクティケー」概念そのものの解明に資する資料に基づき,アリストテレスの『形而上学』を中心とするコルプス(著作集)における学問の方法と,ボエティウスの解釈を考慮しつつ,問答法としての「ディアレクティケー」の関係について考察を行なうとともに,現代的視座からのアリストテレス主義の再検討という観点から,Detelの主張の検討および,Whiteheadのdecisionまたはcutting-off(決断または切り取り)の概念の検討を中心に行なった.すでに,アリストテレスの「存在」について哲学的考察を行なうことを主要な任務とする『形而上学』の諸巻においては,実際に用いられる探求の方法として,多くの場合,演繹的推理であるシュロギヌモスであるよりは,帰納的推理であるエパゴーゲーか,あるいは,アポリアー(難問)を提示して,その解明の道筋を探求する方法,あるいは,問題探究の方法(aporetic method)があることが特徴として見い出されたが,このことは,帰納的推理であるエパゴーゲー,あるいは,アポリアーの方法と「ディアレクティケー」の関係について,アリストテレス『形而上学』Γ巻における矛盾律を否定する論者に対する論駁的な記述と,『トピカ』における「ディアレクティケー」の諸規定を比較考察することを通じて明らかなように,「ディアレクティケー」の問題探究の方法としての側面を考慮すると,Detelの主張する新アリストテレス主義を部分的に認めつつ,Whiteheadのdecision(決断)を複数想定し,許容することによって,現代においても,ディアレクティケー(哲学的問答法)が存立する可能性があることが明らかになった.
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