本年度は、研究実施計画に従って、研究課題の三つの目的のうち1と2(情報モラルと日常モラルの相違点の比較解明、及び日常世界のコミュニケーション形態とコンピュータ・コミュニケーションの形態との比較)を重点的に追求した。 これらについてはこれまでの研究である程度の研究実績があるが、「情報モラルの変容」という観点での研究においては十分な考察には達していなかった。そのため、1では、研究目的に記した具体的な問題(時間空間的な条件と諸概念の意味の相違)に沿いながら、そうした実績を出来る限り精緻にするようつとめた。これにより、日常モラル側の変容が情報モラルの内容に大きく影響していることが確かめられた。しかも、この傾向は近年顕著になりつつある。このことは、日常モラルと情報モラルの連接ひいては日常世界と電子ネットワークの世界との連接が(予想した以上の速度で)進んでいることを意味している。それが同時に、現実世界がますます情報化されつつあることの1つの証左であることは言うまでもない。 2においては、電子ネットワークに特有の表記形態と電子診断プログラム等を考察対象にする予定であったが、それ以前に、日常のコミュニケーション形態の変容状況を確認する必要があると判断し、コミュニケーション状況の実態調査に着手することにした。具体的には、約80名の高校生に対してインタビューを試み、彼らのコミュニケーションのあり方と電子ネットワークにおけるコミュニケーションの特徴との類似点等を取り出し、それが先に述べた「日常世界と電子ネットワークの世界との連接」の問題とどのように関わってくるのかを調査した。そのデータについては、現在、分析を進めている最中であり、結論を得るには至っていない。 以上の成果を踏まえて、来年度の研究においては、情報モラルと日常モラルの連接の状況をさらに具体的なレベルに踏み込んで論及したいと考えている。
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