今年度は、交付決定が九月にずれこんだため、ドイツでの研究打ち合わせや調査はできなかった。しかしながら、そのために国内でがっちり研究ができ、研究が予想以上に進展した。 現在、ドイツで実践的自然哲学派として活躍しているのは、マイヤー・アービッヒ(エッセン大学名誉教授)とルートヴィヒ・ジープ(ミュンスター大学教授)であるが、本年度はそれぞれの哲学の理解に努めた。 マイヤー・アービッヒについて。彼の主著"Wege zum Frieden mit der Natur"(300頁)を『自然との和解への道』(上・下)というタイトルでみすず書房から翻訳出版し、下巻の巻末にアービッヒの実践的自然哲学についての論文を付した。アービッヒの環境哲学は、ドイツ政府に採用され、ドイツ環境政策の根本にある考え方である。この論文と翻訳は、こうしたアービッヒ哲学の、本邦初の紹介であり、きわめて意義のある仕事であると自負している。 ルートヴィヒ・ジープについて。ルートヴィヒ・ジープは私のきわめて親しい友人であり、平成十七年に京都で会って、研究打ち合わせを行った。彼は自分の哲学を最近は「具体倫理学」と呼んでいる。以前はコスモス倫理学と称していたが、構想が進化し思想が定まるに連れて、具体倫理学と呼ぶようになり、2004年に"Konkrete Ethik"(『具体倫理学』、400頁)を出版した。彼はこれを主著と言っているが、現在丸善から翻訳刊行直前である。目に見える成果としては、ジープが具体倫理学のよりよき理解のために送ってくれた「具体倫理学における主観性の止揚」を我々の雑誌に翻訳掲載した。 ドイツ観念論と現代ドイツの実践的自然哲学について。この課題についても研究を進めているが、目に見える形で発表したのは、東北哲学会シンポジウムでの「フィヒテと現代」というタイトルで話した講演においてである。これはいずれ当学会の雑誌に掲載予定である。 なお、平成十八年三月にケルン大学教授になった旧知のミヒャエル・クヴァンテと東京で研究打ち合わせを行い、実践的自然哲学派内部の思想の若干の差異について情報交換した。
|