本研究はハンス・ヨナスに始まり、マイヤー=アービッヒに受け継がれ、ルートヴィヒ・ジープへと拡大していったドイツ実践的自然哲学の研究を通じて、新しい(英米系とは異なる)応用倫理学の構築をめざすことであった。そのためにはまずアービッヒとジープ両者の実践哲学の中心となる業績を見出し、それを理解することから始めなければならなかった。そのためにまず、 1.両者の主要著作の翻訳を行った。アービッヒの著作『自然との和解への道』(みすず書房、2006年)の出版。ジープの主著「Konkrete Ethik」を『ジープ応用倫理学』(丸善、2007年)として出版。もちろん、このほかにも両者の論文の翻訳紹介を通して、研究を深めた。この作業は同時に啓蒙的影響も産み出し、多くの若い研究者の賛同を得た。次に 2.アービッヒとジープの実践哲学を哲学史のなかに位置づける作業に着手した。この仕事は『環境倫理の新展開』(2007年、ナカニシヤ出版)として結実した。一応、両者の哲学はスピノザ、シェリングの哲学の系譜の中に位置づけうるが、事はそれほど単純ではないことが判明し、その明確化がこれからの課題となった。 3.ジープに注目して言えば、彼はヘーゲル哲学との対話を通して、さらにロールズなどの英米系の哲学も尊重しながら、自己の哲学を「具体倫理学」として押し出す。ジープはヘーゲルと同様に全体論の立場を手離さないが、ヘーゲル的全体論は否定する。また、ロールズのような経験論の立場を採用するが、目的論的立場は手離さない。このように実践的自然哲学研究は、この三年間の研究を通じて、その解明への道が整ったと言える。
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