本研究の目的は、メルロ=ポンティの哲学における真理論と存在論と芸術論に焦点を絞りながら、彼の哲学のもつ哲学史上の画期的な意義について明らかにすることである。本研究は、このことをメルロ=ポンティの前期哲学から後期哲学への移行を跡づけながら照らし出している。 第一章は、主として前期の主著である『知覚の現象学』に即しながら、メルロ=ポンティの真理論を彼のパースペクティヴ主義との不可分な関係から解明している。世界内存在としての身体主体は世界を上空飛翔的に認識する主観ではないし、認識や定立の根底にある前述定的知覚はパースペクティヴ的にしか物や世界を生きることができない。彼のパースペクティヴ主義の独自性こそが同時に彼の世界論や時間論そして真理論の固有な展開を可能にしている。第二章は、後期哲学の核心をなす内部存在論に着目しながら、そこでの方法論の特徴を析出し、前期の現象学から後期の存在論へと重心を移動させた主要な理由を解明している。第一原因も究極目的も措定しえない状況の中で、根源について問いかけるための方法がいかなるものなのかを論究するのが第二章の課題である。 第三章は、第二章での方法論の考察を踏まえながら、後期メルロ=ポンティの存在論を<見えるもの>と<見えないもの>の弁証法的関係として解釈している。第四章は芸術論を主題とするが、メルロ=ポンティの芸術論は、芸術を他のさまぎまな領域から区別される独自の領域と見なすのではなく、むしろ、世界と我々との原初的な出会いの場の典型的なモデルとして位置づけている。言い換えれば、芸術とは何かという問いは、知覚経験の根源的在り方を問うことにほかならない。
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