研究概要 |
本年度の研究は,(1)「自然と人間社会との関係性」を具体的に生みだしている「自然相手の労働・仕事」が人間存在の契機にとって持つ意味の検討,(2)現代社会を支えている科学技術が人間から「自然と人間社会との関係性」としての「自然相手の労働」を如何に喪失させ,人間存在をどのように変容させているかについての基本的考察,(3)欧米の環境倫理思想のなかで自然と人間(社会)との関係がどのように捉えられているかの検討,という3つの観点から実施した。この研究において,従来の欧米の環境倫理思想では何が「自然と人間との関係性」を生みだしているかについて十分顧みられていないこと,むしろ「自然と人間との関係性」の生みだすものは自然相手の労働・仕事を措いてはあり得ないこと,従って,自然と人間の関係性としての確立すべき環境倫理はこの自然相手の労働に求めなければならないこと,そしてこの自然相手の労働を人間から剥奪した(即ち,自然と人間の関係性を断ち切り、環境倫理を喪失させている)のは近現代の科学技術(とその製造物)であり,自然相手の労働を人間に取り戻すことが環境倫理の確立の基礎であって,この労働を支えている伝統技術・技能の継承が世代間倫理を確立していくために極めて重要なファクターとなることを解明した。 本年度の研究成果の一部は,「環境倫理学のひとつの課題-自然の制約を超える労働力の導入と人間存在の変容」という論文(『井上義彦教授退官記念集-東西文化會通』臺灣學生書局,2006年2月に所収)としてまとめ公表したが,この成果を踏まえ,今後人間存在にとって「自然」がいかなる契機であるのかを解明することを通じて,自然と人間社会の持続的関係性を基軸とした環境倫理及び世代間倫理の基礎を確立することが本研究の次なる課題となる。
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