本研究では、環境問題がどこに淵源するかを正碓に明らかにすることをひとつの目標にしているが、平成17〜18年度の2年間にわたり、「自然と人間社会との関係性」を生み出しているものが自然相手の人間の労働であり、この労働こそが文化を創造してきたものであるとの基本的立場から、(1)欧米の環境倫理における「自然と人間の関係の捉え方」、(2)人間に豊かさをもたらしたとされる科学技術(とその成果)が人間存在に対してもつ意味、(3)自然の価値を考察するに際し、文化に着眼する環境プラグマティズムの動きなどを検討してきた。 本年度はこうした問題をさらに精緻に考察すると同時に、この2年間の成果を踏まえながら、自然と人間社会との持続的関係性、即ち世代間倫理、をより具体的にどのように確立していくべきかについて考察し、その有力な「モデル5ないしは「指標」となる昭和30年代における日本人の、自然を相手にした労働や生活について、当時の記録写真等をデータとして、詳細な分析を加えた。 そして自然と極めて親和的な社会であると同時に、また現在の環境問題が始まるその出発点でもあるこの昭和30年代を、先に述べた、本研究者の基本的立場である「自然と人間社会関係性を生み出す人間の労働」という観点から考察することにより、この昭和30年代が、一方では自然相手の労働によって自然との極め親和的な関係を保ちつつ、他方科学技術の急速な進展に支えられた高度経済成長によって自然相手の労働が急速に失われていくというふたつの意味で、環境問題の淵源を押さえ、自然との持続的な関係を回復するための有効な「モデル」ないしは「指標」となることを明らかにした。
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