研究概要 |
昨年度は,「出来事個体」に関する検討に基づき,「出来事個体の消滅不可能性が過去の確定性の源泉である」という結論に至ったが,今年度は,これを踏まえ,「出来事個体が出現するのはいかなる時間においてなのか」および「現実性」「可能性」「必然性」概念について検討を行なった。 論文「出来事と時間-経験の場としての時間的パースペクティヴにおける「過去」と「現在」の生成-」において,出来事個体が出現するのは「我々の経験の場としての時間的パースペクティヴ」においてであると主張した。この時間的パースペクティヴは,「物個体の同一性によって支えられた,現在・過去・未来の区別以前の,非測定的な時間的遠近構造」である。即ち,物個体の同一性によって世界は時間的に広がりつつその同一性を確保しているのであり,その意味で千年前の人々も現代の我々も千年後の人々も同じ一つの時間の中に生きていると言ってよい。 次に,論文「テイラーの運命論について」において,テイラーが運命論を導くために提示した2つの議論の妥当性を検討した。その一つの「海戦」版運命論は「過去の確定性から未来の確定性を導く」という構造を持つ。過去の確定性を条件的に解釈すればこの議論は成り立つが,因果的に解釈できる余地があるのでこの議論は成り立たない。もう一つの「オズモ」版運命論は,「真理値の変更不可能性」に基づいて未来の出来事の不可避性を主張する。しかし,真理値の変更不可能性を「Pならば(Pは不可避だ)」と解釈することは論点先取であり,かつ,「現実性」「可能性」「必然性」概念の区別の放棄を伴う。結局,テイラーの議論は成功していない。 なお,発表「現実性・可能性・必然性について-論理的決定論の検討を通して-」(日本哲学会第65回大会)において,フィクション・反実仮想・未来時制文に現れている異なる種類の「可能性」の間の違いを検討し,「現実性」「可能性」「必然性」概念の関係について考察した。
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