研究課題
今年度は初期ストア派の資料について、その伝承の形態を考察した。現在、初期ストア派の資料としてもっともよく用いられるのはArnimの断片集であるが、Arnimは資料を主題ごとに細分化して収録したため、もとの資料が有していた文脈は完全に無視されることになった。しかしながら、初期ストア派についての資料のかなりの部分は初期ストア派のテキストそのものではなく、何らかの間接資料に依拠していると考えられるから、資料の信憑性を確定するために、それぞれの資料がどのような文脈を有しているかを確認することが必要である。本年度はとくに「目的」の概念を中心に、初期ストア派の主たる資料であるディオゲネス・ラエルティオス、ストバイオス、キケロがどのような文脈のなかでストア派の倫理学を紹介しているかを、「目的」についての説明を中心に考察した。「目的」についてどのように説明するかは、ヘレニズム期の哲学にとって、学派を識別する指標ともいえる重要な論点であった。その結果、いずれの資料も、人間はロゴス的動物であるから、人間にとっての目的はロゴス的動物に固有の目的でなければならないという論理において共通し、この論理を枠組みとして初期ストア派の倫理学説を紹介していることが明らかになった。
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Corners of the Mind : Classical Tradition, East and West
ページ: 70-82