研究概要 |
アリストテレスが「ポリス(国家)的動物」という語をどのような文脈で、どのような意味で用いているかを検討した。有名な箇所が『政治学』第1巻第2章であり、そこでは家から村を経てポリス(国家)まで至る、いわば共同体の階層過程のごとき記述を行い、「よく生きる」という目的(テロス)、すなわち人間にとっての(規範的)本性の実現の場としてポリスが要請されるのであり、その意味で人間は「ポリス的」であるとされる。この文脈においては「ポリス的」というのは人間の場合だけに妥当する形容と思えるが、他方で蜜蜂などの群棲動物と比較して「より一層ポリス的」であるとも述べており、『動物誌』第1巻第1章との関連が示唆されている。そのことによって、あるべき姿を示す目的論的な記述と現実の有り様をそのまま示す事実的な記述との混在することになっており、二つの視点がどのように連関し、どのように彼の政治哲学、人間学の基礎となっているかをさらに検討する必要がある。 上記の研究と平行して、「応報」(antipeponthos, reciprocity)に関するアリストテレスの議論を検討した。『ニコマコス倫理学』第5巻第5章の「応報の正義」論は、商業取引における正義が論じられているとしばしば解されるが、それをも含んだ、もっと広い範囲におよぶ応報関係を、比例関係という数学的図式を使って説明しようとしたものと解するべきであり、市民的友愛を成り立たしめるものとしてアリストテレスが重要視していることを明らかにした。適切な応報関係が成り立つことによってポリス(国家)における友愛も維持されうるのであり、その意味でこの正義は政治や倫理が成り立つ基盤をなすものであると言えよう。
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