本年度は、日本思想史の成立に大きく作用したドイツ文献学の受容の部分を軸に、基礎文献の読解・基礎資料の収集をはかるとともに、主題を考察した。一方、その方法において文献学的とは対照的とみなせる土田杏村についても、和辻哲郎の関係などから、広くドイツ的方法の受容の一局面として、考察を続けた。それによって日本の西洋哲学受容史としての側面への切り込みをはかるべく問題点を整理した。 その一部は、10月の日本思想史学会の基調報告での、村岡典嗣論(転成する神話-日本思想史は描けるか)という形で発表した。なお日本思想史研究と神話の問題については、村岡などとの関係から、8月に天理図書館で、生成期の天理教の神観念・神学的理論付けを調査・研究した。 また、イギリス・大英図書館にて、土田の中国での西洋・新カント派受容を論じた『現代日本支那思想』の英訳本"Contemporay Thought of Japan and China"への新聞評などを調べ新たな知見をえた。またフランス・ドイツでは、当時の文献学の現状と、とくにベルリンでは芳賀矢一・村岡の購入講読図書等を調査した。。 基礎文献の解読では、『日本哲学思想全書』の編纂にかかわり、唯物論的思想家を発掘し個人研究をなした三枝博音、および『日本封建制イデオロギー』などの三部作で外部からの評価が今も高い永田広志の、批判的視点にたちつつ内在的なテキスト分析に向かう思想史研究を、あらためて考察した。さらに津田左右吉のこの主題への関わりについては、日本在住の研究協力者Joos氏と、それをめぐる研究上の意見交換の機会をえた。 原典テキスト・研究論文に関してえられた調査による知見は、あきらかになった部分をデータベース化した。
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