研究概要 |
1.カントは前批判期においてルソーの『エミール』の影響を受けて、国家に回収されないような「公共的教育」の可能性を追及していたが、それは同時に教育を通して社会を改善するという構想を持つことも示している。つまり、教育の場面ですでに新たな公共性の構造転換が遂行されつつあったわけである。さらにこの時期では、自然状態および社会状態に対する評価も基本的にルソー的観点から行われて、前者に価値が置かれることになる。しかしやがてカントは、ホッブズの影響によって、法制度の重要性を強調するようになるが、これは批判期になっても変わらない。このことは「前批判期における「法的なるもの」と「政治的なるもの」」で論じた。 2.したがって、批判期においては法制度をめぐって新たな論理の形成が行われる。このときに注目すべきは、理性使用と法制度ないしは法制度の改革とが結び付けられて論じられていることであり、法制度そのものの論理が「理性の私的使用」として解明されると同時に,法制度を改革する論理が「理性の公共的使用」に定位されて,前批判期の教育に代わって批判期には批判という新たな論理が提起されたのである。現在執筆中の論文ではこの論点を「根源的契約」の構造分析に即して敷衍する予定である。 3.カントは「永遠平和」という国際政治の問題にも「理性の公共的使用」の論理を適用して国際連盟という思想の重要性を強調している。その知己に重要な論点は自己相対化であるが、それに対してフィヒテは自己を絶対化する論理を提示して、ここにナショナリズムの原型が提示されることになる。
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