現象学は、フッサール(1859-1938)を祖とする現代思想の一運動である。本研究は、このフッサールの身体論を中心にして、現代思想が課題としている身体論を再考する試みである。 フッサールに関しては、現在彼の著作集が刊行中ではあるが、本テーマに関する遺稿は、なお刊行されていない。そのため、彼の身体論、特にその晩年の思想の到達点を確認し、またその志向を見定めるには遺稿の確認が必須といえる。その資料収集のため、ドイツケルン大学にあるフッサール・アルヒーフに約3週間滞在した。 その期間の間、彼の身体論の中心概念である「キネステーゼ(運動感覚)」が最晩年において、どのように展開し、また自己批判されたかを確認した。また諸感覚のなかで、視覚と触覚とがどのように連関して機能するのか、それによって相互の感覚がいかに制約を受けているのかといった課題に関して、フッサールがいかに格闘し、さまざまにアプローチしているかその姿をかいま見ることができた。さらに彼の身体論と密接に関連する空間論にかんしも、現在刊行されている資料を介しては十分に把握しきれないさまざまな多面性をもつことを確認した。 またフッサールに関する資料収集および分析に従事するとともに、現代思想における身体論の動向を探求した。そのひとつとして日本の代表的哲学者の一人である西田幾多郎がその後期に論議した身体論(特にその行為的直観論)をとりあげ、フッサールの身体論と比較して、相互の思想の差異を浮き彫りにし、論文として公表した。また西田の関しては、その思想史的歩みを、彼が受けた教育制度との関わりから考察し学会発表した。 さらにこの身体に関する取り組みの一環として、身体の自己所有の問題を自由主義の観点から考察し、書籍の一章として公表した。
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