フッサールに関しては、現在彼の著作集が刊行中ではあるが、本テーマに関する遺稿は、なお刊行されていない。そのため、彼の身体論、特に彼の晩年の身体論に関する到達点を確認し、またその志向を見定めるには、遺稿の確認が必須といえる。その資料収集のため、ドイツケルン大学にあるフッサール・アルヒーフに約一月滞在した(なお個人の寄附金をその旅費の一部に充てた)。 その期間の間、彼の身体論の中心概念である「キネステーゼ(運動感覚)」が最晩年において、どのように展開し、また自己批判されたかを確認した。それとともに、キネステーゼとヒュレー(感覚与件)とがいかに関わり、また以下に相互制約をしているのか、さらにその事象がいかに自我を触発するのかを分析した。また諸感覚のなかで、視覚と触覚とがどのように連関して機能するのか、それによって相互の感覚がいかに制約を受けているのかといった課題に関して、フッサールがいかに格闘し、さまざまにアプローチしているかを確認した。その他に彼の身体論と密接に関連する空間論にかんしても、現在刊行されている資料を介しては十分に把握しきれないさまざまな多面性をもつことを読みとった。 また身体論に関わる像理論(自己像の構成)についても資料収集および分析を試み、さらに現代思想における身体論の動向を探求した。
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