本研究においては、王守仁(王陽明)の後学によってまとめられた王守仁の著作に関する文献学的研究を中心に調査を行なった。まず「最古の王守仁の伝記『王陽明先生図譜』について」においては、王守仁の死の直後にまとめられた、王守仁の最古の伝記である、『図譜』について、その全貌を紹介するとともに、その後世における影響についても考察を行なっている。次に、上海図書館に所蔵されている王守仁の『文録』についての調査である「上海図書館蔵『新刊陽明先生文録続編』について」においては、同書が貴州という、当時の辺境において編纂された、極めて特色有る内容を有するものであることを明らかにした。更に、同書が現在までに知られていない佚文を多数含むものであることを、具体例に則して紹介している。王守仁は、軍事家としても著名であったが、その軍事思想を記録した注釈書を紹介したのが、「尊経閣文庫蔵『新鐫武経七書』について」である。同書によって、彼の軍事思想は始めて体系的に分析することが可能となったのである。また、中国における陽明学の研究状況をまとめたのが、「陽明学研究の回顧と展望」である。九十年代以降の中国における陽明学研究の分析は、日本においては初の試みであり、今後の研究の展望を開く上で不可欠の試みであった。
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