研究課題
基盤研究(C)
小林:1.中国では、liberty観念は封建的なものに対する批判の方向で理解され、また「自由」よりは「自主」という訳語のほうが好まれる傾向にあった。またutility「功利」観念も日本に比べて定着が遅かった。これは、儒教の「自由」や「功利」を批判してきた伝統と関係がある。章の「自主」観念は、清末のliberty理解の中ではユニークである。2.章炳麟は強制されずに他者を思いやる共同感情を貴び、士人の利禄追求を功利主義として一貫して批判してきた。3.明治期に形成された功利主義は拝金主義というイメージ、高山樗牛の論文、中江兆民訳ショーペンハウアー著『道徳大原論』の三つは、章に与えた明治期の影響と言える。4.章柄麟と梁啓超との間には、問題意識の類似や共振関係があることが分かり、従来のように、政治的立場からだけで彼らを理解するのは不十分である。佐藤:1.1902年梁啓超の「論公徳」執筆時、明治日本では「公徳」が盛んに喧伝され、ある種の流行語であった。梁啓超は明治日本の影響を受けていたことを確認した。2.とりわけ、井上哲次郎の「公徳」に対する定義と極めて近い定義を、梁啓超が下していることを確認した。3.井上からの思想的影響は、井上独特の「大我-小我」論を梁啓超も展開していることからも証明できる。4.日本の「公徳」に関する議論には福沢諭吉による功利主義的な解釈も存したが、梁啓超は井上哲次郎に代表される儒教的国家主義を模索して、功利主義を廃棄したことを確認した。5.日本での「公徳」に関わる議論を参照することで、梁啓超が無視した思想的課題を見つけることができた。6.西洋功利主義を受容することによって、戴震を再評価する機運が中国近代に生まれたことが分かった。
すべて 2007 2006
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 1件)
文芸論叢 68
ページ: 206-222
東方学 114
ページ: 101-120
THE BUNGEI RONSO, Studies in Literature Japanese and Chinese vol.68
TOHOGAKU(Eastern Studies) No.114
『中国学の十字路-加地伸行博士古稀記念論集』(研文出版)
ページ: 278-290
Crossroad of Sinology-Collected papers in Celebration of Professor KAJI's Seventieth year