研究概要 |
研究代表者は,本研究の主要対象となるクマーリラの年代論を,仏教論理学者ダルマキールティとの関係の面から再検討し,その成果を2005年8月にウィーン(オーストリア)で開催された第4回国際ダルマキールティ会議において発表し,さらに"Reconsidering the Fragment of the Brhattika on Restriction (niyama)"と題した論文にまとめて,会議の紀要を編集するオーストリア科学アカデミー・アジア文化精神史研究所へ2005年12月に提出し,受理された。 論文"The Theorem of the Singleness of a Goblet (graha-ekatva-nyaya)"は,クマーリラによる文の意味認知理論を新たに解明した。文の意味認知のプロセスに関して,クマーリラは,個別の単語の意味認知が先に起こり,それらが集積されて文意の認知に至るという,部分から全体へボトムアップ的に理解が進む「表示されたものの連関」説の提唱者であると一般に認められている。しかし彼は主著Tantravarttikaの中で,文の中の単語はそれ自体では固有の意味を表示していても,前後の文脈により,その意味表示が意図されなくなる場合があると認めている。例えば,文の中で名詞が単数で表記されていても,場面においてその名詞が特定の幾つかの個体を指すことが前後の文脈で既知となっている場合には,当該の文における名詞の単数は意図されていない。つまりクマーリラは,文の意味認知において,全体から部分へとトップダウン的に理解が進む契機があることをも認めていたのである。 論文「「曙色」をめぐるミーマーンサー的考察」では,単一の文において,規定の対象が二つ以上あっても,それらが統一ある全体を構成している限り,文は一つの主題(uddesa)に対して従属要素の全体を規定することが出来るという解釈規則を,クマーリラがいかに根拠付けているかを明らかにした。
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