研究概要 |
本研究の目的は,後期インド仏教における密教思想とそれ以外の仏教思想との関係を明らかにし,後期インド仏教史再構築に向けての端緒をつくることである.具体的目標としては,Jnanasrimitra(10-11世紀頃)に帰せられる『金剛乗に関する二つの極端な見解の排除(rDo rjetheg pa'i mtha'gnis sel ba)』の校訂テクスト・英訳註の作成に従事した.校訂テクスト・英訳註については近年中に公刊する予定である.研究期間を通じて,特に以下の点が明らかになった.(1)当該テクストの著作コロフォンにはJnanasriという著者名のみが記載されているが,TaranathaとSum pa mkhan poはJnanasrimitraが当該テクストの著者であるとしている.ただしこの伝承の正当性についてはさらなる慎重な検討が必要と思われる. (2)研究分担者の種村隆元は,当該テクストに言及されるcaryaという概念について,それがGuhyasamajatantraに言及されるものと親近性を有し,またCaryamelapakapradipaに言及されるcaryaという概念ともある程度の関連性を有していることを明らかにした. (3)Bu ston, Tsog kha pa, Padma dkar poなどの後代のチベット仏教の思想家たちが当該テクストを引用している事実を明らかにした.その引用頻度からしても,密教思想とそれ以外の仏教思想との関係を論じる際に,当該テクストがある程度の影響力を有していたことが予想さる.
|