本研究の目的は、新発見の梵語仏典写本、デイグナーガの『集量論自注』に対するジネーンドラブッデイの『複注』第3章・第4章を解読し、批判的校訂本を作成することにある。 本年度は、第3章「他者のための推理」のなかで、デイグナーガ自身の自説を述べる前半部の約4分の3までと、他学説を批判する後半部の冒頭「ヴァーダヴィディ説批判」全体と「ニヤーヤ説批判」の一部の校訂作業を終えた。来年度中には自説部分全体と「ニヤーヤ説批判」の校訂作業を終える予定である。 本年度も、ほぼ毎月2度研究会を開催してきた。そのための準備作業として、研究代表者である桂がまず「試行版」を作成・配布した。筑波大学では研究分担者である小野基氏と渡辺俊和氏を中心にそれを検討して、多くのレファレンスを含む「批判的校訂」を作成し事前に配布した。さらに京都産業大学の志賀浄邦氏が当該部分の「英訳」を作成し、第3の解釈を提示すると同時に、海外からの研究会参加者の便をはかった。 研究会には、関西在住の仏教論理学研究者が多数常時参加された。龍谷大学名誉教授神子上恵生氏、種智院大学沖和史氏、京都大学赤松明彦氏、神戸女子大学狩野恭氏他である。さらに新しく赴任された京都大学の外国人講師Divakar Acharya氏(ネパール出身、ハンブルク大学PhD)が参加され、並行して進めている『集量論自注』の梵語テキストの再構築のために多くの有益な示唆をいただいた。9月にはオーストリア学士院のシュタインケルナー教授が来日され、研究会に参加して、レビューをしていただいた。研究代表者は10月にウィーンを訪れ、クラッサー氏他のレビューを受け、情報交換を行った。 来年度はオーストリア学士院からラシック氏が3ヶ月来日され、研究会に参加される予定である。
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